眠りたくない夜の夢

眠りたくない。

 

子どもの頃から寝付きがとても悪い。寝ようとして目を閉じていてもただ目を閉じて考え事をしているだけになってしまう。考えようとしていなくても、次から次へといろんなことを思い出していろんなことが気になってしまう。

目を開けているときの方が無心でいられるのだ。自分がいないから。見えている世界だけになるから。でも目を閉じているとなにかこう、言葉や頭の中の視界に支配されてしまう感じになる。

でも本当は寝るのが好きだ。ずっと夢の中にいたい。子どもの頃から現実が苦手だからだ。怒鳴る大人や叩く大人がいる世界。動いて話して考えなければいけない世界。生きようとしなければいけない世界。生きようとすると、なぜか理想を高くして突っ走ってしまって、息苦しい。夢の中は世界と自分との距離が近い。肉体に隔てられていないから、じかに感じることができる。夢の中でも五感がわりとはっきりしているタイプなので、舌を介さずに味わうことが好き。夢の中で食べるご飯は現実のそれよりずっとおいしいのだ。

 

夢の中で、ときどき知らない男の子に会う。同い年くらいだったり、少し年上だったりする。顔もはっきりしなくて、ただわたしにものすごく優しくしてくれて、現実では絶対に味わえないような安らぎがそこにある。だいたい元気がないときに会いに来てくれる。双子の片割れのような、恋人のような、兄のような、父のような、神のような、よくわからない人。いつでも穏やかな微笑みをたたえる人。わたしは人間が苦手なので、だれといても安らげない。夢の中は違う。夢の中にしかいない人たちは強い言葉を持たない。言葉に依存していない。わたしは言葉ではない感覚が好きなので、言葉でかかわる必要のない存在が好きだ。小さい頃からずっと猫と育ってきたのもあるかもしれない。少し目を合わせたあとは寄り添ったりすれ違ったり離れていたり、居心地のよいところが見つかるはずなのだ。

 

だからずっと夢の中にいたい。でも今は眠りたくない。どうしてだろう。